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日漢協通信14年4月号より


      
       日本漢方協会 副会長  三上正利




はじめに

 薬用植物は古くから漢方製剤の原料として使用されており、元来、その利用方法としては、山野に自生している植物を採集したものを使用し、野生植物に依存してきたところである。
 近年、使用量の拡大や品質の確保のために、一部の薬用植物については栽培化される動きもあるが、国内自給にはほど遠く、現状としては、野生植物を海外から輸入している状況にある。  
 このような中、野生の植物の乱獲が砂漠化を招くとして、中国においてカンゾウ、マオウの採取等が困難となり、我が国の輸入にも影響のおそれがあり、海外依存及び野生植物依存の現状の問題点が浮き彫りとなってきている。
 本中間まとめは、国内外での薬用植物の利用等の現状を踏まえつつ、カンゾウ等に関する課題に対して今後必要となる対応について検討を行うため、学識経験者等からなる私的懇談会(別添)を設置し、平成13年4月から4回にわたり検討を行い、その中での議論をとりまとめたものである。

 なお、本中間まとめでいう薬用植物とは、原則として「医薬として用い、また、医薬の原料とする植物。日本薬局方に収載されているもの」とする。ただし、海外での利用状況や中長期的課題においては、「ハーブといわれる地中海地域等の薬用植物」を含むものとする。

国内外での薬用植物の利用等の状況

(1)国内の状況

我が国は、亜熱帯〜温帯に位置し、南北に長く延びているため、植物相は非常に多様であるため、種類の多いことでは有名であるが、個々の量的な問題になると、利用に十分というには程遠い状況にある。また、多品種であるため、需給についての情報量も少なく、全ての情報を把握することは困難である。
 我が国で消費される薬用植物は、海外からの輸入の依存度が高く、一部には国内生産の高い品種もあるが、総じてみると国内自給率は10%を下回るものと推定される。「薬用植物の輸入量及び国内生産量(1996年):表1」の総量上位50種を見ても、国内生産量が50%を超えるものとしてわかっているものは、わずかに6種しかなく、さらに品目によっては種苗保存のレベルまで生産が停止したものもある。そのような生産減少の理由の一つとしては、農業労働者の高齢化等の問題のある中、栽培や加工等が難しく、費やす労力の大きい薬用植物は敬遠される傾向が強いことが挙げられる。

(2)輸入依存の現状

 我が国の薬用植物事情は、輸入に大きく依存している。そのため、生産国の事情によっては、円滑な輸入が実施されないこともあり得るといったような危機感と常に隣り合わせの状況にあり、実際、中国での環境保全のためのカンゾウ、マオウの採取制限により、我が国では、カンゾウ、マオウの供給に問題が発生するのではないかとの懸念されている状況にある。
 また、日本貿易月表調査による薬用植物の輸入状況では、日本は薬用植物の中国への依存が最も大きく、次いで、タイ、インド等のアジア諸国である。

(3)欧米での利用等の状況

(1) 米国

 西洋医学の高い価格の医薬品を避けることや国民の西洋医学以外のDietary Supplementとヘルスケアーに関心を高めていること等を背景に新しい取り組みとして、医薬品と食品の中間に位置するDietary Supplementを法的に構築し、Dietary Supplementを規制する法律を公布した。ハーブに関しては、欧州でPhytotherapy の伝統を受けて薬効を認めPrescription OTC として承認されているものがあり、これを米国独自のカテゴリーで取り入れたものである。

年次的な主な動きは下記のとおりである。

1994年  
  ○DietarySupplement(栄養補助食品)に関するHatch-Harikin法の可決
  ○DSHEADietarySupplement,HealthandEducationAct)の交付
  ○NIHにOfficeofDietarySupplement(ODS)を新設

  :(設置目的)健康の維持、慢性疾患及びその他の健康に関する障害の予防におけるDietary    Supplement の利点の科学的研究を推進すること

1998年  
FDACenterforFoodSafety&Applied Nutritionは、DietarySupplementとしての麻黄製品及び麻黄配合製品でエフェドリンによる死亡事故が頻発したことを受けエフェドリンの1日摂取量を24mg、1回摂取量を8mg規制

2000年  
    ODSは、DietarySupplementの摂取量が、がん、骨粗鬆症、心臓病、先天性欠損症、前立腺炎、白内障等の疾患をどの程度抑制したり軽減するかを科学的に評価する研究を開始

(2) ドイツ
 生薬製剤は、それを加工しているか否かにかかわらず、活性成分として植物、植物の一部あるいは植物原料、若しくはそれらの配合剤のみからなる医薬品として分類。植物から単離された化学物質は生薬製剤とはしない。ほとんどの生薬製剤は非処方せん薬である。
 約800品目の生薬製品が、再評価により有効性が証明され、これをまとめ上げた「コミッションE」が1994年に約300種類について報告している。

 また、新たに販売許可を与えられている製剤のうち主なものは、セイヨウサンザシ、セイヨウオトギリソウの1種、イチョウ、カノコソウ、センナ、カミツレ、ホソバイラクサ、エキナケア、ニンニク等である。約300品目の古い生薬製品が再評価中。

(3) フランス
 薬用植物は医薬品特性を持つ植物として仏薬局方に収載されている。薬用植物の販売は一部の例外を除き薬剤師が行う。
 また、生薬製剤の定義は薬品庁の通知によると、「生薬製品は活性成分として、専ら生薬あるいは生薬加工品を含む製品である」とし、生薬から単離された化学物質は生薬製剤と見ないこと、毒物や麻薬類を含む植物(例えばベラドンナ)は処方せん薬とすることが記載されている。
 なお、生薬は約530品目で、主な適用は、ダイエット補助、緩下剤、血流の改善等である。

(4) イギリス
 生薬製剤の定義は医薬品法132節で規定され、現在、548品目が認められている。一般用に使用されているものは、リューマチ痛、便秘、カタル、風邪、腰痛、筋肉痛、咳等である。主なものは、セイヨウカノコソウ、トケイソウ、ニンニク、センナ、エキナケア、スカルキャップ、セイヨウタンポポ、ホップ、ブッコ葉である。
 また、生薬製剤は、医薬品としているが薬局とそれ以外の小売店で販売している。その販売規定は医薬品の3分類によっている。
処方せん薬:ジギタリス、ジャボク、ストリキニーネなどのような危険性のある植物を扱う医薬品。処方せんが必須であり、薬局で販売。
一般販売薬:歴史的に数百年前から市場で販売されていて安全性の問題なく伝統的に用いられ、販売承認を受けている医薬品。一般小売店で販売可能。
薬局薬:処方せん薬と一般販売薬に分類されない医薬品、薬局のみで販売。
 なお、安全であり(安全性の担保は販売者の責任)、かつ医薬品効果を標榜しないものは食品とみなされる。

国内におけるこれまでの取組
 漢方及び生製剤に用いられる原料の薬用植物は、その多くを輸入に依存している現状にあるため、国内における薬用植物の安定供給、品質の向上等への対応の重要性に鑑み、薬用植物の優良種苗の確保及び薬用植物の栽培技術指導等を目的として、国立医薬品食品衛生研究所及び地方自治体の薬用植物担当を中心とし、昭和63年から「薬用植物栽培・品質評価指針作成」等の事業を開始した。「薬用植物栽培・品質評価指針」は、国内で栽培が可能な薬用植物ごとに作成し、オウレン、ジオウ、トウキ、ミシマサイコをはじめとして、現在まで46品目について作成されている。

 カンゾウ及びマオウについて
(1)カンゾウについて
(1)現状
 カンゾウについては、現状ではマオウのような中国政府による輸出禁止政策は打ちだされていないが、中国西北地域一帯での環境破壊が進行しており、その主原因の一つとしてカンゾウの乱獲が挙げられ、中国国内でカンゾウに関する様々な規制が行われている。
 中国政府は、現在まで実施していたカンゾウの輸出許可制度を活用した輸出総量規制、輸出港の限定による無許可輸出の防止、輸出許可取得料の値上げ、生産地に対する管理・規制などで乱獲防止を進めている。
 また、中国国内各団体においても、カンゾウの栽培研究・生産を実施しているが、日本薬局方に適合するカンゾウの生産技術は確立されていない。
 中国からのカンゾウ(カンゾウ製品は含まない)の総輸出量は、1999年は5,691t(過去10年のピークは1994年の14,270t、中国海関総署「中国海関統計年鑑」より)であり、日本への総輸出量は、1999年は2,384t(同じくピークは1991年の8,886t、日本関税協会「日本貿易月表」各年12月号より)、このうち中国産は1,078t(同じくピークは1991年の2,331t、同上)である。
 なお、2000年1〜12月の日本のカンゾウ総輸入量は4,151tで、このうち中国産は3,250t(過去10年で最高)となっており、また、我が国の医薬品漢方製剤上位(21製剤)の中で、2/3に使用されている。(表2)

(2) これまでの経緯
1)中国の開放政策以降(1950年代):カンゾウの国内外での需要が高まり1990年代前半までその必要量は毎年拡大の一途をたどってきた。しかし、カンゾウはそのほとんどが野生資源に依存していたため、環境破壊や資源の枯渇が絶えず懸念されていた。
 そのため、中国政府はカンゾウのみではなく、抽出エキスやグリチルリチン酸などの輸出を許可制としていた。(後にカンゾウ製品の輸出許可制は一時解除となる)
2)2000年6月:中国国務院より「カンゾウ、マオウの乱採取防止に関する若干の問題の通知」が内部通達
3)2000年6月以降:各級人民政府は、上記国務院通知を受けた国家経済貿易員会通知に基づき、6月以降随時その管内におけるカンゾウの採集・生産・売買・流通に関する規制の実施と栽培化を推奨
4)2001年1月:国家経済貿易合作部より、カンゾウの輸出に関する政策の改正
  ・年間輸出総量枠の縮小
  ・輸出港の限定
  ・カンゾウ製品の許可証制度復活
(3)今後の動き
 中国が今後、WTO加盟国となることにより、貿易に関する条件は世界ルールに近づくこととなり、全ての貿易商品に対する許可制、輸出規制等は発動しにくい状況になると思われるが、カンゾウに関しては、環境破壊、資源の枯渇等により、今後とも完全自由化となることは考えにくい。
 また、中国内における野生カンゾウの供給停止は、中国国内での需要の増加の状況から鑑みても無理があり、暫くは規制が強化されても野生カンゾウの供給は維持されるものと思われる。
 しかし、環境破壊防止が最大課題であるため、国内需要が優先され、輸出品に対する規制が今後さらに強化される可能性は十分あると考えられる。
 また、今後さらにカンゾウの栽培化が進み、数年後には市場での割合が増加するものとみられるが、栽培種の現状の品質は日局のグリチルリチン酸含有量規格を満たすものは少なく、また、中国薬典にもグリチルリチン酸規格はあるが、中国市場では低グリチルリチン酸含有量品であっても使用されている様子から、中国内での栽培品の流通量が拡大しても日本ユーザーは引き続き野生品が必要となり、その輸出規制政策とあいまって、日本市場ではさらに輸入が困難になることが予測される。

(2)マオウについて
(1)現状
 中国対外貿易経済合作部発令の『エフェドリン類製品目録』に記載されたマオウ関連商品については、中国側の輸出許可証及び輸入側の輸入承認証がある場合のみ、指定された公司より輸出される。しかしながら、原形マオウは発令当時と変わらず全面輸出禁止である。また、発令当初の正規の申請手続きに基づけば、輸出許可されていたマオウ草粉(切断マオウ)であっても、許可されにくくなっており、現状では正式な輸出はできない。ただし、輸出禁止政策が発令された1999年1月以前に契約された分で、中国輸出会社側に在庫があるマオウについて、輸出許可書が発行されている場合がある。
 なお、中国内におけるマオウの年間の生産量や使用量に関する明確な資料はないが、中国からの輸入量は1998年は277t(過去10年のピークは1996年の699t、1999年より統計なし、日本関税協会「日本貿易月表」各年12月号より)となっている。

(2) 今後の動き
 マオウの輸出禁止は、環境破壊防止を大きな理由に掲げているが、カンゾウに比べて使用量は少なく、また、生薬マオウは根こそぎ収穫するものではないため、環境負荷は比較的少ないとの見方もある。さらに、多量のマオウを原料としてエフェドリン粗抽出を行う企業に対して、自社栽培地の保有を中国政府は義務づけており、また、マオウの栽培自体には特別な技術等は必要ないことから、栽培化も進んでいる様子である。
 しかしながら、今後WTOへの加盟国となることから、覚醒剤原料の不法エフェドリン粗抽出物の製造・流通規制が必要不可欠になるものと考えられる。
 したがって、栽培化は順調に進んでも、早急な輸出規制解除は困難と考えられ、当面、日本市場の輸入は現状より厳しくなることが予測される。

検討の必要な課題について
(1)今後早急に実施すべき課題(薬用植物の確保に関するリスク管理対策)
 薬用植物の輸出国の事情等により必要な薬用植物の入手が困難になるおそれがあることは既に述べたとおりである。このような危機管理対策としては、薬用植物の栽培手法の確立は一朝一夕にはできないことや、一度栽培をやめてしまうとこれまで栽培してきた薬用植物と同様の品質のものを栽培するのに非常に長い期間を要する場合もあること等の問題を踏まえると、従来より地方自治体等で実施している、我が国の貴重な薬用植物の栽培、安全性や品質確保に関する栽培研究、農家等への栽培指導等のための継続的な薬用植物の栽培が着実に実施されることがまず重要であると考えられる。また、さらなる対策を検討する場合、将来的に輸入量が制限される可能性の高い薬用植物についての情報収集や、ボウイ、ボタンなどの国内でのみで生産される薬用植物の選定等による優先付けや、我が国での栽培可能性等に基づき、計画的かつ積極的に有用薬用植物が栽培されることが望まれる。
 現状では、特に、カンゾウ、マオウの栽培手法の確立は緊急の課題として早期に取り組むことが必要であり、国立医薬品食品衛生研究所及び地方自治体の植物園等のそれぞれの気候や土壌等の特性を活かしつつ、品質、生産性、経済性、栽培適地等について、栽培実証とあせた調査研究に取り組むことが有効であると考えられる。また、国研や大学等においては、中国以外の国での、潜在量、基原植物の確認、品質(性状規格、成分含量)、輸送コスト等に関する調査研究の推進、さらに、輸入を行う民間での環境や資源確保に配慮した栽培技術協力も重要である。
 また、カンゾウ、マオウ以外にも、現在、国立医薬品食品衛生研究所や地方自治体の植物園等において栽培されている、例えば、センナ、サイコ、ソウジュツ等の海外への輸入依存が高く汎用性の高い薬用植物について、生物資源確保や学術的有用性等の観点から、引き続き栽培を行うことが重要である。

(2)中長期的課題
 有限資源である薬用植物は、今後、多くの薬用植物について、野生のみの利用ではなく、栽培種の利用も不可欠になることが予想される。このような栽培種に関しては、輸出入国間において、品質確保等の信頼性をもって利用していかなけばならない。つまり、一般の農作物と異なり、薬用植物は成分構成変化につながるような品種改良は基本的にはできない(品種改良を行う場合、野生種がよいのか栽培種でも有効なのか等の科学的評価を行うための手法の確立が必要と考えられる。)ことから、中長期的課題として、例えば、野生種と同等である等の品質の確保に資する薬用植物栽培方法の標準(GoodAgricultualPracticeforMedicinalPlants)に基づく、国際的な協力関係を推進していくことが必要になると考えられる。
 また、その他の中長期的課題としては、医薬品に不可欠又は有望な薬用植物を安定的に探索導入できるよう原産国の輸出規制状況の把握と対処の迅速化につながる調査研究の推進、また、経験的に良いという形で漢方処方等に用いられる薬用植物について、科学的根拠のもと、本質的に分類できるような学問体型の確立等に資する調査研究の実施も望まれる。
 検討委員会メンバー
 伊藤 (株)ウチダ和漢薬医薬情報部
 岡田 日本漢方薬製剤協会技術
        (株)ツムラ開発研究本部
 合田幸広 国立医薬品食品衛生研究所生薬部
佐竹元吉 (財)日本薬剤師研修センター
 正山征洋 九州大学大学院薬学研究院
 白井義数 国産生薬(株)
 関田節子 国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場
 寺澤捷年 富山医科薬科大学和漢診療学
 花輪壽彦 北里研究所東洋医学総合研究所
 佐藤 東京女子医科大学附属東洋医学研究所
 御影雅幸 金沢大学薬学部
 三上正利 (社)日本薬剤師会薬局製剤・漢方委員会  ミカミ薬局
 渡辺正純 武田薬品工業(株)ヘルスケアカンパニー開発部(現:理研ビタミン(株))

  
薬事法改正と薬局製剤
 厚生労働省は
 @医薬品製造承認の国際協調

 A動物の細胞組織を使った医薬品の安全強化
 B市販後の安全性の確保
 の目的で薬事行政の見直しを行ってきた。
 今国会で薬事法の改正を提出の見込みでいる。自民党医療基本問題調査会の薬事行
 政のありかた検討小委員会では今回の薬事法
 改定について了承した。
 この改正薬事法の24条に「薬局の構造設備
 による医薬品の製造」として薬局製造業が明文化される見込みとなった。
 今までは医薬品の製造に関する改正や通達があるたびに、薬局製造業をその規定から除外してもらわないとならなかった。この条文により、その必要が無くなるかもしれない。
 今後製薬企業に科せられる条件と別に、薬剤師の管理できる範囲と、薬局構造設備の範囲で良いことになるだろう。
 薬局製剤を、製造業と調剤との中間的なものにしてもらいたいとする薬剤師側の意見に一歩近づいたような気がする。






薬用植物の利用開発等に関する検討について(中間まとめ)
厚生労働省発表  抜粋